ロングターンで谷回りから山回りへ移るとき、外脚にしっかり乗り込んで深い内径角をつくりたい。けれど実際には、山回りで股関節の動きが浅いまま終わってしまう。ロングターンをもっと攻めたいスキーヤーから、よく聞く悩みです。
身体全体を内側に倒す動作だけだと、「内倒」してしまいます。股関節を適切に動かして、内径角をつくっていくことで内倒を防ぐことができます。
内径角の深さには、外脚側の内転筋群の柔軟性が関係していることが知られています。外脚の股関節が十分に外転(開脚の動き)しなければ、内径角がそこで止まってしまうからです。
ただし、ここで注意したいのは、ただ股関節の外転可動域を広げればいいわけではないという点です。柔軟性を高めるつもりで、ロングターンにふさわしくない動きまで一緒に覚えてしまっているケースが少なくありません。

なお、外脚に片脚で乗り続ける機能そのものについては別記事「外スキーに乗り切れないのは筋力の問題ではない!? 片脚支持の機能的トレーニング」で、股関節の可動性全般については別記事「スキー上達に不可欠な股関節の柔軟性と可動性の特徴」で詳しく解説しています。
今回は内転筋群そのものに絞って掘り下げて解説していきます。
開脚ストレッチが、シェーレンを生んでいる?
座った姿勢で開脚ストレッチをするとき、股関節を外側に開く外転に、股関節を外側にねじる外旋が一緒に起きていないか確認してみてください。多くの人は、外転を大きくしようとするほど、無意識に外旋も強めています。

この理由として、内転筋群のうち、いくつかの内転筋(大内転筋など)が大腿骨の後面に付着していることが関係すると考えられます。外転を深めるほど外旋も強まりやすい、ということです。
この組み合わせは、ロングターンでは技術的な問題につながります。ターン後半、切り上がろうと外脚の股関節外転を深めると、同時に外旋が起こりやすくなります。
股関節が外旋すると、外脚のスキートップは外側へ開く方向に動きます。これが、左右のスキーがシェーレンしてしまう一因と考えています。
「内転筋」は1つの筋肉ではない
「内転筋」とひとまとめに呼ばれますが、一般的には恥骨筋・短内転筋・長内転筋・大内転筋・小内転筋・薄筋の6つの筋肉の総称です。それぞれ骨盤・大腿骨への付着位置が異なり、外旋との結びつきやすさも一様ではありません。

一般的によく行われている座位での開脚ストレッチだけを繰り返していれば、特定の内転筋は柔軟性が高まりますが、全ての股関節の内転筋群の柔軟性が高まるわけではありません。
このうち薄筋は、股関節だけでなく膝関節もまたぐ二関節筋なので、股関節や膝関節の角度によって伸ばされ方が変わります。
2021年、立命館大学の研究チームは、筋肉が伸びた状態でのトレーニングが、短い筋長でのトレーニングより筋肥大効果が大きいことを、二関節筋であるハムストリングスで報告しています。この結果は内転筋群そのものを対象にしたものではありません。それでも、二関節筋は関節角度によって異なる反応を示すという点は、内転筋群のストレッチを設計するうえで参考になります。


ただし、開脚ストレッチを1種類だけ続けても内径角が深まらない、あるいはシェーレンの感覚が抜けない場合、6つの筋肉のうち一部しか十分に伸ばせていない可能性があります。
膝を伸ばした状態での開脚だけでなく、片脚ずつ行う、膝を曲げた状態と伸ばした状態を使い分けるなど、複数のバリエーションを組み合わせることで、より多くの筋をバランスよくカバーできると考えられます。
柔らかいだけでは、内径角は支えられない
日常の動作のほとんどは、歩く・立つ・座るといった前後方向の動きです。脚を大きく開閉する動作は、生活の中でほとんど出てきません。ロングターンで深い内径角をつくるのに必要な柔軟性と筋力を、トレーニングせずに自然に持っている人は多くありません。

一方で、鍛えれば内転筋群は十分に力を発揮できる部位です。オーストラリア・グリフィス大学の研究チームが2026年に発表した横断的バイオメカニクス研究では、片方の脚を台に乗せて体を側方に支えるコペンハーゲン・エクササイズが、股関節内転筋を鍛える種目として有効である可能性が示唆されています。
また、オーストラリア・メルボルン大学とオーストラリアカトリック大学の研究チームによる2026年のシミュレーション研究では、股関節屈筋と内転筋を鍛えることで最大疾走速度が高まる可能性が示されています。内転筋群が下肢のパワー発揮に重要な役割を持つと考えられます。
内転筋群は、股関節だけでなく体幹ともつながっています。2024年、東京医科歯科大学の研究チームによる解剖学的研究では、内転筋群と腹部の筋肉が、恥骨の部分で別々の腱膜として付着していることが報告されています。深い内径角をつくる動作は股関節だけで完結せず、体幹までつながる力の伝達として捉える必要があると考えられます。
深い内径角をつくるには、柔軟性と筋力の両方が欠かせません。柔軟性があっても、外脚側の内転筋群が伸ばされた状態のまま力を発揮できなければ、姿勢を支えきれずに膝や体が内側に入り込む「内倒」 が起きやすくなります。
内倒は、別記事「外スキーに乗り切れないのは筋力の問題ではない!? 片脚支持の機能的トレーニング」で解説した側方サブシステムの機能不全のサインのひとつでもあります。
技術選選手でも起きた、内転筋の肉離れ
サポートしている全日本スキー技術選手権の選手が、以前、大会前の練習中に転倒して内転筋群を肉離れしたことがあります。深い内径角をつくる場面では、外脚側の内転筋群は伸ばされた状態のまま、瞬間的に強い力を発揮しなければなりません。転倒などでこの姿勢が崩れ、伸ばされながら踏ん張る力を発揮できないと、損傷が起こりやすいと考えられます。
恥骨・鼠径部周辺の痛みは医療的な診断が必要な場合があるため、違和感が続く場合は専門家に相談してください。
内転筋群に関連する損傷は、他競技のアスリートでも報告されています。2018年、米国のアンドリュース・スポーツメディシン&整形外科センターの研究チームは、長内転筋の腱膜が損傷した競技選手100例の診断・治療と、手術後の競技復帰について報告しています。
サポートしているクライアントさんの中にも、内転筋群の扱いを苦手にしている方が多くいます。そこでおすすめしているのが、先ほど紹介したコペンハーゲン・エクササイズです。

横向きになり、上側の脚をイスやベンチに乗せ、下側の脚を浮かせた状態で体を一直線に保つ種目です。主に働くのは、台に乗せた上側の脚の内転筋群で、伸ばされた姿勢のまま力を発揮できます。ロングターンで外脚側の内転筋群が伸ばされながら踏ん張る状況に近い負荷のかけ方です。慣れないうちは負荷が強いため、膝を軽く曲げた姿勢から始めると取り組みやすくなります。

出来ればスキーパフォーマンス向上を意識するのであれば、広い可動域での筋出力が生じるようなトレーニングの仕方がベストです。ただし、内転筋群の柔軟性が乏しい人がいきなり大きな可動域でトレーニングしてしまうと、肉離れのリスクも高まってしまいますので、徐々に広い可動域でトレーニングしていけるように取り組んでいきましょう。
まとめ
ロングターンで深い内径角をつくるポイントは、次の4つです。
- 外転を深めると外旋も強まりやすく、シェーレンの原因になりうる
- 内転筋群は6筋あり、特定のストレッチだけでは不十分
- 日常生活で使われにくく、柔軟性も筋力も不足しやすい
- 鍛えずに攻めると、肉離れのリスクがある
長座での開脚ストレッチに加えて、片脚ずつ・膝の角度を変えたバリエーション、そしてコペンハーゲン・エクササイズのような力を発揮するトレーニングを組み合わせてみてください。内転筋群を整えることが、シェーレンや内倒を避けながら、ロングターンでもう一段深い内径角を描くための土台になると思います。
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参照エビデンス
- Comfortable and Convenient Turning Skill Assessment for Alpine Skiers Using IMU and Plantar Pressure Distribution Sensors, 2021.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33513728/
- Biomechanical factors influencing the performance of elite Alpine ski racers, 2014.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24374655/
- Hip Adductor Muscle Forces During Strength Training and Rehabilitation Exercises, 2026.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41931009/
- Running Speed is Maximized by Strengthening the Hip Flexors and Hip Adductors, 2026.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42189432/
- Significant relationship between musculoaponeurotic attachment of the abdominal and thigh adductor muscles to the pubis: implications for the diagnosis of groin pain, 2024.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37985575/
- Athletic Pubalgia Secondary to Rectus Abdominis-Adductor Longus Aponeurotic Plate Injury: Diagnosis, Management, and Operative Treatment of 100 Competitive Athletes, 2018.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30263900/
- Greater Hamstrings Muscle Hypertrophy but Similar Damage Protection after Training at Long versus Short Muscle Lengths, 2021.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33009197/

1995-2016 財団法人日本オリンピック委員会 選手強化スタッフ
|1995-2014 財団法人全日本スキー連盟 競技本部強化委員会強化委員、医科学委員会委員 |


