目次
ロイシンとは
ロイシン(Leucine)は、筋タンパク質の合成において非常に重要な役割を果たす必須アミノ酸の一つです。 アミノ酸には、体内で合成できるアミノ酸と合成できないアミノ酸があります。必須アミノ酸とは体内で合成できない、食事から摂取する必要があるアミノ酸です。
必須アミノ酸は9種類あり、ロイシンはそのうちの1つになります。必須アミノ酸の中でも特にロイシンは筋肉の成長と修復において重要な役割を担っており、筋肉量を増やしたい人や運動をする人にとって欠かせない栄養素です。ロイシンは赤身の魚や肉類、卵に多く含まれています。
スキーオフトレとロイシンの関係
スキーオフトレで筋力トレーニングをして筋力アップ・筋量増量を狙う方も多いと思います。転倒によるケガのリスク低減や滑走パフォーマンス向上に筋力トレーニングは役立ちます。筋力を高めたり、筋量を増量または維持するためには筋タンパク質合成(Muscle Protein Synthesis, MPS)が重要な役割を果たします。MPSは、筋タンパク質分解(Muscle Protein Breakdown, MPB)とバランスを取ることで筋肉量を決定します。
通常、食後にMPSが増加し、空腹時にはMPBが優勢になります。レジスタンストレーニング(RT)や強度の高いエアロビックトレーニングにおいて適切な栄養摂取がMPSを促進する主要な要因です。
筋タンパク質合成は筋肉の修復と成長を促進するプロセスであり、このプロセスを最適化するためには適切な栄養摂取が不可欠です。その中でも特に注目すべきはロイシンです。
ロイシン摂取のメリット
ロイシンは、必須アミノ酸の一つであり、筋タンパク質合成(MPS)を促進する重要な役割を果たします。2010年以降に公開されたいくつかの学術論文のデータを基に、ロイシン摂取のメリットについて解説します。
筋肉量と筋力の向上
ロイシンは、特に高齢者において筋肉量と筋力の向上に寄与します。ある研究では、65歳以上の参加者に対して13週間にわたり1日6gのロイシンを摂取させた結果、筋肉量と機能的パフォーマンスが有意に改善されました。具体的には、歩行時間の短縮や最大静的呼気圧力の向上が観察されました。
インスリン感受性の改善
ロイシンは、インスリンの分泌を促進する作用もあります。インスリンは、筋肉細胞にブドウ糖を取り込ませる役割を持ち、エネルギー供給を助けるとともに、筋肉の成長と修復をサポートします。
食欲抑制と体重管理
ロイシンは、食欲抑制に寄与する可能性があります。いくつかの研究では、ロイシンの中枢投与が食欲を抑制し、エネルギーバランスを調整することが示されています。
筋タンパク質合成の促進
ロイシンは、mTOR経路(細胞の成長、増殖、代謝、生存などを制御する重要な経路)を活性化することで筋タンパク質合成を促進します。これは、特に運動後の筋肉修復と成長に重要です。ロイシンの摂取により、筋タンパク質合成が急速に増加し、筋肉の回復と成長が促進されます。
ロイシン摂取の目安
ロイシンの一日の推奨摂取量は、年齢や性別によって異なりますが、18歳以上では約39mg/kg体重とされています(日本人の食事摂取基準 2020年版:厚生労働省)。中学生や高校生は約42-44mg/kg体重と、もう少し多くのロイシンが必要となります。
ロイシンは多くの食品に含まれており、特に動物性タンパク質(牛肉、鶏肉、魚、乳製品)や大豆製品(豆腐、納豆)に豊富です。
以下は、100gあたりのロイシン含有量の例です
- カツオ: 1800mg
- 鶏むね肉: 1900mg
- 鶏卵: 550mg
- 豚ロース肉: 1600mg
- 豚ヒレ肉: 1700mg
- まぐろ赤身: 2100mg
- あじ: 960mg
- サンマ: 1600mg
- 牛サーロイン: 1100mg
サプリメントの活用
スキーオフトレシーズンで、特に筋力アップや筋量増量を狙ったレジスタンストレーニングを定期的に行う場合は、ロイシンの必要量が増します。食事だけで十分なロイシンを摂取することが難しい場合、サプリメントを利用するのも一つの方法です。
ホエイプロテインには、ホエイプロテインハイドロリセート(WPH)、ホエイプロテインアイソレート(WPI)、ホエイプロテインコンセントレート(WPC)の3種類があります。牛乳由来のホエイプロテインの他に、エッグプロテインやソイプロテインにもロイシンは含まれています。(プロテインに関する記事はこちらもご参照ください「最高のスキーオフトレシーズンを過ごすためのプロテイン選択ガイド」)
またロイシンを多く含んだEAAサプリメントもあります。EAA(必須アミノ酸)サプリメントは、体内で合成できないため食事から摂取する必要がある9種類のアミノ酸を含むサプリメントで、ロイシンを多く含んでいます。これらのアミノ酸は、筋タンパク質合成(MPS)を促進し、筋肉の成長と修復をサポートするために重要です。EAAサプリメントは、特に運動後の回復や筋肉の維持、免疫機能の向上、疲労の軽減などに効果があります
それぞれのプロテインの1スクープあたりのタンパク質含有量、必須アミノ酸(EAA)含有量、ロイシン含有量について以下にまとめます。
ホエイプロテインコンセントレート(WPC)
タンパク質含有量: 約24g/30g(1スクープ)
EAA含有量: 約37%(全体のタンパク質のうち)
ロイシン含有量: 約2.0g/30g(1スクープ)
ホエイプロテインアイソレート(WPI)
タンパク質含有量: 約28-35g/30g(1スクープ)
EAA含有量: 約43%(全体のタンパク質のうち)
ロイシン含有量: 約2.58g/33g(1スクープ)
ホエイプロテインハイドロリセート(WPH)
タンパク質含有量: 約27g/30g(1スクープ)
EAA含有量: 約43%(全体のタンパク質のうち)
ロイシン含有量: 約2.5g/30g(1スクープ)
ソイプロテイン
タンパク質含有量: 約27g/30g(1スクープ)
EAA含有量: 約26%(全体のタンパク質のうち)
ロイシン含有量: 約2.0g/30g(1スクープ)
エッグプロテイン
タンパク質含有量: 約24g/30g(1スクープ)
EAA含有量: 約32%(全体のタンパク質のうち)
ロイシン含有量: 約2.0g/30g(1スクープ)
EAAサプリメント
EAA含有量: 9g/14g(1スクープ)
ロイシン含有量: 3.3g/14g(1スクープ)
ロイシン摂取のためのプロテインとEAAの使い分け方
プロテインと必須アミノ酸(EAA)は、筋タンパク質合成(MPS)を促進しますが、それぞれの特性を理解し、適切に使い分けることが重要です。 オフトレでは筋トレをしたり有酸素をしたり、また体を休める時間も必要です。以下、条件別の摂取タイミング、吸収率、筋タンパク合成などの視点からまとめてみました。
摂取タイミング①:筋トレをする場合
プロテイン: 筋トレ70分前もしくはトレーニング後に摂取することでMPSを最大化します。ホエイプロテインは消化吸収が速く、運動後の筋肉修復と成長をサポートします。
EAA: 筋トレ直後や筋トレ中に摂取することで、即座に血中アミノ酸濃度を高め、MPSを促進します。EAAは消化が不要で、迅速に吸収されるため、即効性があります。
摂取タイミング②:有酸素運動をする場合
プロテイン: 有酸素運動後に摂取することで、筋肉の分解を抑制し、回復を促進します。プロテインは持続的なアミノ酸供給を提供します。
EAA: 有酸素運動中や直後に摂取することで、筋肉の分解を防ぎ、回復をサポートします。特に長時間の有酸素運動では、EAAの迅速な吸収が有効です。
摂取タイミング③:トレーニングをしない場合(オフ日)
プロテイン: 食事の一部として摂取することで、日常的なタンパク質摂取量を補完し、筋肉の維持をサポートします。
EAA: トレーニングをしない日でも、EAAを摂取することで、筋肉の分解を防ぎ、筋肉の維持をサポートします。特に食事から十分なタンパク質を摂取できない場合に有効です。
吸収率
プロテイン: 特にホエイプロテインハイドロリセート(WPH)は最も速く吸収されます。ホエイプロテインアイソレート(WPI)も高い吸収率を持ちますが、ホエイプロテインコンセントレート(WPC)やソイプロテイン、エッグプロテインはやや遅いです。
EAA: 消化が不要で、迅速に吸収されるため、吸収率は非常に高いです。EAAは血中アミノ酸濃度を迅速に上昇させ、即効性があります。
筋タンパク合成(MPS)
プロテイン: ホエイプロテインは高いロイシン含有量により、MPSを効果的に促進します。特にホエイプロテインは、運動後のMPSを最大化するために最適です。
EAA: 特にロイシンが多く含まれるEAAサプリメントは、MPSを強力に刺激します。EAAは、少量でもMPSを効果的に促進することができます。
ロイシン不足で生じるデメリット
筋タンパク質合成の低下
ロイシンは筋タンパク質合成を促進するために非常に重要なアミノ酸です。ロイシン不足により、mTOR経路の活性化が阻害され、筋タンパク質の合成が低下します。これにより、筋肉の成長や修復が阻害され、トレーニングの効果が低下する可能性があります。
筋肉量と筋力の低下
筋力トレーニングは筋肉を分解する行為になります。修復のために十分なロイシンが無いと、筋タンパク質の分解を促進し、筋肉量と筋力の低下をもたらす可能性があります。特に40歳過ぎると自然に年1%筋肉が減少します。50歳で年2%、60歳過ぎると年3%ずつ筋肉が減ってしまいます。ロイシンが不足すればより加齢に伴う筋肉量の低下(サルコペニア)が進むリスクが高まります。
エネルギー代謝の低下
ロイシンは脂肪酸の酸化を促進し、エネルギー代謝を高める作用があります。ウインターシーズン中、スキー滑走では脂肪の重要なエネルギー源です。ロイシンが不足してしまうと脂肪酸の酸化代謝が低下し、スキー滑走のパフォーマンスが低下する可能性があります。
免疫機能の低下
ロイシンは免疫細胞の生成を促進し、免疫機能を強化する作用があります。ロイシン不足により、この作用が低下すると、冬季に流行る感染症などにもかかりやすくなる可能性があります。
筋肉の回復遅延
ロイシンは運動後の筋肉の回復を促進する作用があります。ロイシン不足により、この作用が低下すると、筋肉の回復が遅延し、次のトレーニングの質が低下する可能性があります。
まとめ
オフシーズン、筋力を高めたり筋量を維持・増量するためには、タンパク質の摂取が不可欠です。その中でも特に重要な役割を果たすのがロイシンです。
肉や魚、乳製品、プロテインサプリメントなど、ロイシンを多く含む食品をバランスよく摂取することで、筋肉の健康を保ちながらオフシーズンのトレーニング成果を最大化できます。食事から十分なロイシンの摂取が難しい場合はサプリメントの利用も必要となります。特に筋力トレーニングやハードな有酸素運動後など、適切なタイミングでロイシンを摂取することでより高いトレーニング効果を得ることが出来ます。
オフトレシーズン中もパフォーマンスを高めたいと考えているスキーヤーの皆さん、正しい栄養摂取でトレーニングの成果をより高いレベルで実感しましょう!
参照エビデンス
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10418071/
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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6245118/
Native whey protein with high levels of leucine results in similar post-exercise muscular anabolic responses as regular whey protein: a randomized controlled trial 2017
https://jissn.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12970-017-0202-y
Protein timing and its effects on muscular hypertrophy and strength in individuals engaged in weight-training 2012
https://jissn.biomedcentral.com/articles/10.1186/1550-2783-9-54
The Effects of Timing of a Leucine-Enriched Amino Acid Supplement on Body Composition and Physical Function in Stroke Patients: A Randomized Controlled Trial 2020
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7400340/
Essential Amino Acids and Protein Synthesis: Insights into Maximizing the Muscle and Whole-Body Response to Feeding 2020
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7760188/
Stimulation of muscle protein synthesis with low-dose amino acid composition in older individuals 2024
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnut.2024.1360312/full
Human Muscle Protein Synthesis Rates after Intake of Hydrolyzed Porcine-Derived and Cows’ Milk Whey Proteins—A Randomized Controlled Trial 2019
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6567276/
Anabolic response to essential amino acid plus whey protein composition is greater than whey protein alone in young healthy adults 2020
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7011510/
Research progress in the role and mechanism of Leucine in regulating animal growth and development 2023
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10691278/
Leucine deprivation results in antidepressant effects via GCN2 in AgRP neurons 2023
https://academic.oup.com/lifemeta/article/2/1/load004/7026143?login=false
Leucine deprivation inhibits proliferation and induces apoptosis of human breast cancer cells via fatty acid synthase 2016
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5325395/
Deficiency in the Essential Amino Acids l-Isoleucine, l-Leucine and l-Histidine and Clinical Measures as Predictors of Moderate Depression in Elderly Women: A Discriminant Analysis Study 2021
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8623361/
【参考資料】食品の選び方(独立行政法人 環境再生保全機構)
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/copd/nutrition/04.html
スポーツとアミノ酸(味の素株式会社)
https://www.ajinomoto.co.jp/amino/life/sports.html
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