目次
筋トレを最大化させるための3つのトレーニング変数
筋肥大を目的として筋力トレーニングをする場合、実行したトレーニングに対する努力効果を最適化するためには、どんな要素を抑えておけば良いのでしょうか?
2022年、スペインのイザベル大学他の研究チームから発表された包括的レビューから、抑えておきたいポイントを整理してみました。
Resistance Training Variables for Optimization of Muscle Hypertrophy: An Umbrella Review 2022
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35873210/
この包括的レビューは、2009年から2020年に発表された52のメタ分析のうち14の高品質な論文からレジスタンストレーニングのさまざまなトレーニング変数と筋肥大への影響を分析しています。
トレーニング変数というのは、使用重量やセット数、反復数、トレーニングのやり方、インターバルタイムなど、筋力トレーニングを行う際にカギとなる要素です。
筋力トレーニングでは筋力向上の効果も得ることが出来ますが、今回のリサーチでは筋肥大の効果に絞ってリサーチしていますので、筋力アップを目的としたレジスタンストレーニングで求められる変数はまた少し異なる可能性があります。
このリサーチでは以下の3つの変数が重要であることが示されていて、この3つの変数が筋肥大反応を最大化するために非常に重要だと述べています。私の方でさらに裏付けとなる論文をリサーチして加筆しまとめてみましたので、より筋肥大効果を高めたい方は是非参考にしてください。
①筋群ごとに週に少なくとも10セットが最適
筋トレの最適な週あたりセット数やトレーニング効果が最大化できるセット数については様々な研究がされてきています。非常に沢山の筋力トレーニングに関する論文を執筆しているニューヨーク州立大学のBrad Schoenfeld博士が発表した2017年のメタ分析でも、週に10セット以上のトレーニングボリュームが必要とされています。
一般的に筋力トレーニングでは、週のセットボリューム(1週間で実行した総セット数)が増えるほど、筋トレ効果が増えるという用量反応関係が様々な研究で証明されています。週に5セットのトレーニングよりも、10セット実施した方が筋力向上・筋肥大の効果が高い、ということです。
但し、週に20セットトレーニングしたら週10セットの2倍のトレーニング効果を得られるか、といえばそうではありません。筋トレにおける用量反応は直線的では無いので、トレーニングに費やす時間や労力と相対効果のバランスは、今回の包括的レビューでは筋肥大においては「10セットが最適」としています。
少しでも筋肉を増やしたいというボディビル選手やフィジーク選手などは、筋肉を増やすことが最終目的なので、対努力効果に関係なく週あたりのセットボリュームを増やすことが必須です。ボディビル選手やフィジーク選手以外のアスリートや一般のトレーニング愛好家であれば、筋肥大はトレーニングの目的の1つだと思いますので、トレーニング時間に費やした努力に対する効果を考える必要があります。
週に10セットのトレーニングというのは、週2回・同じ部位をトレーニングする場合は1回のセッションで5セット消化する必要があります。週3回同じ部位をトレーニングするスケジューリングでトレーニングしている方は1回のセッションで3-4セット行う必要がある、ということになります。
②筋肥大目的であればエキセントリック収縮は非常に重要
上腕二頭筋を鍛えるバイセプスカールを例に説明すると、ダンベルを持ち上げて筋肉を収縮させながら力を発揮するパターンを「コンセントリック収縮」、反対に上腕二頭筋が重力に抵抗しながらダンベルをゆっくりと下ろしていく力の発揮パターンを「エクセントリック収縮」と言います。
筋肉を肥大させるためには、筋タンパク合成を促進させる必要があります。筋タンパク合成を促す刺激には、メカニカルストレス(機械的刺激)とケミカルストレス(化学的刺激)の2つがあります。
エクセントリックトレーニングは、特にメカニカルストレスがコンセントリック収縮よりも多くかかることにより筋力向上効果が高いことが2022年のオーストリア・ウィーン獣医科大学の研究でも明らかになっています。
エクセントリックトレーニングというのは、下ろす動作だけ行うトレーニングもありますが、通常は普段のトレーニングの中で筋肉が伸張されながらダンベルやバーベルを下ろす動作を丁寧に、かつその筋肉を意識してゆっくり降ろすトレーニングになります。
エクセントリックトレーニングは特殊なアスリート向けのトレーニングではなく、健康やアンチエイジング目的の一般トレーニーの方にも効果的なトレーニングテクニックです。
高齢者のトレーニングにおいてもエクセントリック収縮を重視したトレーニングがプラスの効果をもたらすことが2022年のスロベニア・プリモルスカ大学の研究で判明しています。
筋肥大を目的とした筋トレの場合は、伸展動作でストレッチ刺激が筋繊維に加わることで様々な遺伝子が発現したり、成長因子が活性化されて筋タンパク合成が非常に活性化されます。
さらに筋肥大だけでなく、エクセントリック収縮筋力の方がコンセントリック収縮よりも40%大きな出力を発揮出来ることが2023年・南フロリダ大学の研究で確認されたので、エクセントリックトレーニングの方がコンセントリック重視のトレーニングよりメカニカルストレスを与えやすく、筋肥大・筋力向上に優位と言えます。
③非常に遅い反復(≥10秒)は避けるべき
1レップスの反復時間については2022年にスペイン・ムルシア大学ほかの研究では、1レップスの反復時間は4-8秒未満が最も筋肥大に効果的というシステマティックレビューが公表されています。この研究で対象となったトレーニーはトレーニング経験者およびトレーニング未経験者両方を対象にしているので、アスリートやボディビルダーなど普段から高強度で筋力トレーニングをしている人だけでなく、フィットネス向上や健康志向で筋力トレーニングをしている人にも役立つトレーニング変数になります。
また、2015年のアメリカ・リーマン大学でも1レップスの反復時間と筋肥大の効果の関係性を調べていて、反復時間が0.5秒から8秒であれば同程度の筋肥大効果という結果が出されていました。そして、10秒以上のスロートレーニングでは、ファストトレーニングやミドルスピードでのトレーニングよりも筋肥大効果が低下する、ということも明らかになっています。
一時期流行った「スロートレーニング」は筋肥大においては、あまり効果的では無いようです。但し、軽い負荷しか使えない場合や、関節に負担をかけたくない場合は筋肥大効果が最適化されなくても、スロートレーニングは選択肢としてありなのかもしれません。
反対に1回の反復時間が早過ぎると筋肉の緊張状態が短くなってしまいます。筋肥大を目的として筋力トレーニングをする場合、TUT(TimeUnderTension:筋の緊張持続時間)が重要とされています。
今回の包括的レビューではトレーニング変数には含まれていませんでしたが、筋肥大を最大化するための1セットのTUTは40-60秒とされているので、TUTも考慮して反復スピードを決めることも重要だと思います。
例えば、8RMの重量で1レップに3秒かけて8レップストレーニングした場合、TUTは24秒となります。2022年に発表されたエビデンスではTUT3秒と6秒の時間では筋肥大効果に差は無いという報告がありますがTUTが24秒だと短過ぎる、ということになるので、6秒×8レップス=48秒でトレーニングした方が、より筋肥大効果は高まりそうです。
1回の反復時間は10秒以内にすることと、使用する重量(RM)とTUTを考えて、反復時間を計算してトレーニングすると、より最適化された筋肥大トレーニングが可能となります。
まとめ
今回は筋肥大の最適化のためのレジスタンストレーニング変数についての包括的レビューのベースに、いくつかの論文データからも関係する変数を整理してみました。
・ 筋群ごとに週に少なくとも10セットが最適
・エキセントリック収縮は重要
・非常に遅い反復(≥10秒)は避けるべき
筋肥大を目的として筋力トレーニングをするのであれば、この3つのトレーニング変数をしっかり取り入れて行うことで、トレーニングした成果をしっかり結果として得ることが出来ると思います。
限られたトレーニング時間の中で努力に対する効果を得ることは、トレーニングを継続していくモチベーションを高めていくことにも繋がると思います。
S-CHALLENGE Training Program Works では、完全オーダーメイドの個別化トレーニングプログラムの作成・配信サービス「プログラムサポート」を全国のクライアント様に展開しています。事前に提供していただいたトレーニング履歴や受傷履歴などの個人情報や利用可能なトレーニング環境、ライフスタイル、トレーニングおよび体力レベルに応じたプログラム作成をしています。適切なプログレッシブオーバーロードを個別プログラムに反映させながら、トレーニングの成果をパフォーマンス向上やカラダの機能的向上につなげています。「プログラムサポート」サービスに関するご質問・お問い合わせはお気軽にこちらのWEBフォームをご利用ください。
参照エビデンス
Dose-response relationship between weekly resistance training volume and increases in muscle mass: A systematic review and meta-analysis 2017
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27433992/
A Systematic Review with Meta-Analysis of the Effect of Resistance Training on Whole-Body Muscle Growth in Healthy Adult Males 2020
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32079265/
How many times per week should a muscle be trained to maximize muscle hypertrophy? A systematic review and meta-analysis of studies examining the effects of resistance training frequency 2019
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30558493/
The Effect of Weekly Set Volume on Strength Gain: A Meta-Analysis 2017
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28755103
Resistance Training Variables for Optimization of Muscle Hypertrophy: An Umbrella Review 2022
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35873210/
Effect of Repetition Duration—Total and in Different Muscle Actions—On the Development of Strength, Power, and Muscle Hypertrophy: A Systematic Review 2022
https://journals.lww.com/nsca-scj/Abstract/2022/10000/Effect_of_Repetition_Duration_Total_and_in.4.aspx
Effect of repetition duration during resistance training on muscle hypertrophy: a systematic review and meta-analysis 2015
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25601394/
Equalization of Training Protocols by Time Under Tension Determines the Magnitude of Changes in Strength and Muscular Hypertrophy 2022
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34932279/
The Effects of Eccentric Strength Training on Flexibility and Strength in Healthy Samples and Laboratory Settings: A Systematic Review 2022
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35574461/
The Effect of Eccentric vs. Traditional Resistance Exercise on Muscle Strength, Body Composition, and Functional Performance in Older Adults: A Systematic Review With Meta-Analysis 2022
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35498525/
The Eccentric:Concentric Strength Ratio of Human Skeletal Muscle In Vivo: Meta-analysis of the Influences of Sex, Age, Joint Action, and Velocity 2023
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37129779/
S-CHALLENGE Training Program Works 代表/フィジカルトレーナー
ファンクショナルトレーニングと筋力トレーニングを統合したトレーニングメソッドで、アスリートやスポーツ大好きな社会人クライアントの動作と機能を高めるサポートを展開。日本スポーツ協会 公認アスレチックトレーナー(JSPO-AT)、全米スポーツ医学アカデミー 公認コレクティブエクササイズスペシャリスト(NASM-CES)