同じ斜面を、同じスキーで滑っているのに、なぜ上位の選手ほど毎回ほとんど同じように滑れるのでしょうか。
2024年、スペイン・カタルーニャ体育大学(INEFC)とポンペウ・ファブラ大学の研究チームが、スラローム滑走中の動作のばらつき(Movement Variability:同じ動作を繰り返したときに、どれだけ動きが揺れるかを示す指標)とパフォーマンスの関係を調べた研究を発表しています。
アンドラ国内トップレベルのエリートアルペンスキー選手5名を対象にして、合計77本の滑走データを分析したものです。対象人数は決して多くありませんが、実際のスラローム滑走そのものを対象にした数少ないデータの一つです。
速い選手ほど、滑走中の動作にばらつきがない
この研究では、選手の腰部に加速度や角速度を計測する小型センサーを装着し、そのデータから動作のばらつきを算出しています。結果として、タイムが速い選手ほど、動作のばらつきが小さい傾向にあることが分かっています。
速さと安定性は相反するもののように思われがちですが、実際には逆のようです。
スピードを出すために思い切った動きをしているというより、毎回ほぼ同じ動きを再現できているからこそ速い、という見方もできます。ただし対象は5名のみと少人数のため、この傾向がすべてのスキーヤーに当てはまるとは言い切れません。あくまで、トップレベルの選手を対象にした限られたデータから見えてきた傾向として捉えてください。
この研究が対象にしているのはスキー動作そのものですが、私が現場で見てきた別の場面でも、似たような傾向を感じたことがあります。
当時サポートしていたアルペンスキー選手たちが雪上トレーニングを終えた後、翌日のスラロームのレースパフォーマンスを高めるために、コンディショニングトレーニングを行いました。
少し難易度の高いラダートレーニングを実施したのですが、他の選手たちは、10種類のバリエーションのほとんどで複数回のトライを経てようやく完走できていた中、ある選手だけはほぼ一発で成功していました。
そして、その選手はワールドカップで活躍しているトップスキーヤーに成長しています。ラダーと滑りに、直接的な動作の繋がりはありませんが、動作の再現性の高さの重要性を再確認した出来事でした。
動作の再現性は、斜度・ゲート幅・疲労という条件で崩れる
動作の再現性という言葉は、別記事「スキーパフォーマンスを高める『特異性の原則』とは?」でも触れていますが、その記事は同一選手が反復練習をしたときの筋活動の安定性を扱ったものです。ここで見ていくのは、選手間の速さとばらつきの関係、そしてその再現性がどんな条件で崩れるかという別の切り口になります。
先ほどのINEFC・ポンペウ・ファブラ大学の研究では、斜度とゲート幅を変えた条件でも動作のばらつきを比較しています。斜度が急なコース(21°)は、緩やかなコース(12°)よりも動作のばらつきが大きくなっていました。
また、ゲートの左右の間隔が広いコース(4m)は、狭いコース(3.25m)よりもばらつきが大きくなる傾向が見られました。動作の再現性は、生まれつき備わった固定の能力ではなく、斜度やコース設定という条件によって崩れるものだということです。
疲労も、同じように動作を崩す条件の一つです。2025年、スペイン・カディス大学の研究チームによると、疲労が平衡コントロール(体のバランスをとる能力)に悪影響を及ぼす可能性があることが確認されています。また2024年、フランス・サヴォワ・モンブラン大学の研究チームによると、疲労が力の発揮と滑走ラインの両方を悪化させることも明らかになっています。動的なバランス能力を高める一般的なトレーニング方法については、別記事「スキーヤー向けバランス感覚向上トレーニング:パフォーマンスを飛躍的に高める方法」で詳しく解説しています。
斜度・ゲート幅・疲労といった条件で動作の再現性が崩れるとして、崩れるとき、その影響は体のどこに表れやすいのでしょうか。
崩れやすい起点は足部・足関節にあり、股関節(中殿筋)と連鎖している
股関節や体幹側から片脚支持の安定を説明した内容は、別記事「外スキーに乗り切れないのは筋力の問題ではない!? 片脚支持の機能的トレーニング」で扱っています。ここでは逆に、足関節という末端を起点にした連鎖を見ていきます。
動作が崩れるとき、その起点はどこにあるのでしょうか。ここで参考になるのが、慢性足関節不安定症(足首の捻挫などを繰り返した結果、足関節が慢性的に不安定になっている状態)を対象にした一連の研究です。
2025年、中国・武漢体育大学の研究チームによると、慢性足関節不安定症の人は健常な人と比べて股関節周りの筋力が有意に低下していることが分かっています。
同じく2025年、中国・上海体育大学の研究チームによると、慢性足関節不安定症の人は運動時に中殿筋・大殿筋の筋肥厚が起きにくいことも確認されています。
さらに2026年には、同じく上海体育大学の研究チームが、慢性足関節不安定症の人に股関節の強化と足関節のリハビリを組み合わせると、姿勢制御と筋力の両方が改善することを明らかにしています。
足関節の不安定性は、足関節だけの問題にとどまらず、股関節周りの筋機能にまで連鎖しているということです。これは慢性足関節不安定症の人を対象にした研究ですが、同じ連鎖はスキーヤーの足関節でも起きていると私は考えています。
足部内在筋を鍛えるトレーニングが、足の機能を高める
連鎖の起点が足部にあるのだとすれば、そこを鍛えることで何が変わるのでしょうか。2022年、中国の研究チームがネットワークメタ分析を行い、慢性足関節不安定症の人に対して足部・足関節の筋力トレーニングを行うと、固有受容感覚(関節の位置や動きを感じ取る感覚)の改善に最も有効であることを示しています。
ここで重要になるのが、足の内在筋(足の中だけで完結している小さな筋肉群)です。
2023年、アメリカ・クレイトン大学の研究チームが、13件の質の高い研究を統合したメタ分析を行い、足の内在筋を鍛えるトレーニングが足の機能改善に役立つことを明らかにしています。
では、具体的にどの種目が効果的なのでしょうか。
2024年、イギリス・インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームが、健康なボランティア16名を対象に、9種類の異なる足部運動を行った際の母趾外転筋(親指を外側に開く筋肉。土踏まずのアーチを支える役割も持つ)の活動を筋電図で測定したところ、片足で立ってスイング動作を行う運動で、この筋肉の活動が特に高まることが確認されています。
また2023年、アメリカ・カリフォルニア州立大学イーストベイ校の研究チームが、健常者20名を対象に、足の指で押す動作とつかむ動作を比較したところ、母趾外転筋とは別の筋肉である長母趾屈筋・短母趾屈筋も、動作によって貢献度が大きく異なることを確認しています。
動作精度を高めるための腓骨筋群エクササイズ
足部のトレーニングでは「何をやるか」よりも「どう動かすか」が重要です。片足でスイング動作を行うと、足裏にある「母趾外転筋」の活動が高くなることが、ある研究で明らかになっています。
過去に実施したスキーオフトレワークショップ「WS285 スキー操作の安定性向上 – 片脚支持バランスを高めるための3つのアプローチ」でも、片脚支持の姿勢を保ったままスイング動作を行う種目を取り入れました。このとき参加者から、片脚での安定感が変わったという反応がありました。
つま先を上げ下げする動き(底屈・背屈)は日常生活の中にもよくあるため、ふくらはぎや前脛骨筋(すねの前面にある筋肉)のストレッチを習慣にしている方は多いと思います。
一方であまり動かしていないのが、足の外側方向へ体重が逃げていく動きに関わる腓骨筋群(すねの外側を通る筋肉群)です。これは私が選手やクライアントさんのサポート現場で見てきた中での経験的な見解であり、研究による裏づけがあるわけではありませんが、腓骨筋群を使ってあげることで片脚バランスが良くなったというコメントを多く聞きます。
腓骨筋群のストレッチ(立位)
足を腰幅に開いて立ち、片方の脚に体重を乗せます。反対側の足を、軸脚の後ろでクロスさせます。後ろ足のつま先を内側に返しながら外くるぶしを床面に近づけるように、スネの外側(腓骨筋群)を20秒程度ストレッチします。反対側も同様に行います。
腓骨筋群のアクティベーション(レジスタンスバンド)
イスなどに座り、右足の小指の付け根付近にレジスタンスバンドを引っかけて、左足裏を介して両手でバンドの端を掴みます。バンドに適度なテンションをかけた状態で、右膝を動かさず、右小指の背側を右スネの横方向に近づけるようにバンドを伸ばします。元の位置に戻るときはゆっくりと動かします。15〜20回を2セット程度、反対側も同様に行います。
こうして腓骨筋群を整えたうえで、片足でのスイング動作を行い、母趾外転筋を働かせます。足の外側の筋肉がうまく働いていない状態のままスイング動作を行っても、狙った筋肉を働かせにくいので、先に腓骨筋群を整えてから母趾外転筋を使うエクササイズがおすすめです。
まとめ
- 速い選手ほど、動作にばらつきが少ない傾向がある(対象5名の限られたデータではあるものの)
- この再現性は固定の能力ではなく、斜度・ゲート幅・疲労という条件で崩れる
- 崩れやすい起点は足部・足関節にあり、股関節(中殿筋)と連鎖している可能性がある(対象は慢性足関節不安定症の患者データ)
- 片足でのスイング動作は、足の内在筋の一つである母趾外転筋の活動が高まることが確認されている種目の一つ
スキーヤーを対象にした「動作の再現性」に関する研究はまだ数が少ないので確定的に言えることは限定的です。ただし、私のサポート経験上、かなり改善出来る要素も多いので、このトレーニング記事を参考にしていただき、ご自身の滑りやトレーニングに反映させていただければ嬉しいです。
科学的根拠に基づいたスキーヤーのためのトレーニング方法を、メールで受け取りませんか?
今回の記事のように、最新のスポーツ科学や論文データに基づいた「スキーオフトレ情報」や「身体の使い方のコツ」などをニュースレター限定で配信しています。より効率良く、期待したトレーニング成果を得たい方は、ぜひご登録ください。
※ いつでもワンクリックで解除可能です。
参照エビデンス
- Influence of the Slope and Gate Offset on Movement Variability and Performance in Slalom Skiing, 2024.
- https://www.mdpi.com/2076-3417/14/4/1427
- Effects of Acute Fatigue on Balance Control of Alpine Skiing Athlete, 2025.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40430108/
- Fatigue-induced alterations in force production, trajectory and performance in alpine skiing, 2024.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39466112/
- Hip muscle strength in patients with chronic ankle instability: A systematic review and meta-analysis, 2025.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40701039/
- Is chronic ankle instability associated with contractile thickness of gluteus medius and gluteus maximus during functional movement and exercise? A systematic review and meta-analysis, 2025.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39320034/
- Effects of hip strengthening on postural control and muscle strength in individuals with chronic ankle instability: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials, 2026.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41825489/
- Can Therapeutic Exercises Improve Proprioception in Chronic Ankle Instability? A Systematic Review and Network Meta-analysis, 2022.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35550140/
- Evidence for Intrinsic Foot Muscle Training in Improving Foot Function: A Systematic Review and Meta-Analysis, 2023.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35724360/
- A comparison of abductor hallucis muscle activation and medial longitudinal arch angle during nine different foot exercises, 2024.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38905851/
- Contributions of flexor hallucis longus and brevis muscles to isometric toe flexor force production, 2023.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38314582/
1995-2016 財団法人日本オリンピック委員会 選手強化スタッフ
|1995-2014 財団法人全日本スキー連盟 競技本部強化委員会強化委員、医科学委員会委員 |