滑りの操作性を高めるスキーヤーの体幹「ローカル筋」トレーニング

スキーのオフトレーニングで「体幹を鍛えましょう」とよく言われます。しかし、ジムで腹筋運動を積み重ねているのに、シーズンに入ると上体がブレる、外スキーに乗り切れない、斜面で身体が置いていかれる──そんな経験をお持ちの方は少なくないはずです。

原因は、鍛えている「体幹」の種類にあるのかもしれません。スキーヤーにとって本当に必要な体幹の筋肉は、シットアップやクランチなどで鍛えられる腹直筋など体幹を動かす大きな筋肉群ではなく、姿勢を制御するのに必要な比較的深部にある小さな筋肉群です。この記事では、なぜスキーヤーが小さな深部の筋肉群に目を向けるべきなのか、それが転倒予防とターン動作にどうつながるのかを、順を追って説明します。

スキーヤーの体幹は「腹筋を固める」より「姿勢を制御する」ローカル筋が要

体幹の筋肉は、大きく二つに分けて考えることができます。ひとつは、腹直筋や腹斜筋などのグローバル筋(表層にある大きな筋肉。身体を大きく曲げる・ひねるといった動きや、強い力発揮を担う)。もうひとつが、体幹の深部にあるローカル筋(脊柱や骨盤のすぐ近くにあり、姿勢の保持と関節の安定を担う筋肉。多裂筋や腹横筋などが代表)です。

一般的な腹筋トレーニングで鍛えられるのは、主にグローバル筋です。腹直筋を割る、いわゆる「シックスパック」を作るトレーニングは、身体を強く曲げる力を高めます。但し、スキーで求められるのは、身体を固めて力むことではありません。刻々と変わる斜面と速度のなかで、姿勢を保ち、重心をコントロールし続けること。これを担うのがローカル筋です。

滑りの操作性、スキーヤー、体幹、ローカル筋

ここまで読まれて、「ローカル筋ってインナーマッスルのこと?」と思われた方もいるかもしれませんね。トレーニング雑誌などに書かれている「インナーマッスル・アウターマッスル」というのは、筋肉の位置関係(カラダの深部か表層部か)を示す言葉です。対して、「ローカル筋・グローバル筋」というのは、筋肉の役割の違い(機能的分類)を意味しています。

グローバル筋とローカル筋の違いそのものについては、別記事「グローバル筋とローカル筋」で詳しく解説しています。ここでは、スキーヤーにとってローカル筋がなぜ決定的なのか、その応用に絞って話を進めます。

ローカル筋が姿勢制御を支え、転倒・怪我を防ぐ

社会人スキーヤーにとって、最も切実なテーマは「安全に、長く滑り続けること」だと思います。派手なパフォーマンス向上よりも、転ばないこと、怪我をしないことのほうが、はるかに価値があります。

ローカル筋は、この「転ばない身体」の土台です。姿勢を保持し、重心を安定させる働きが、バランスコントロールそのものだからです。実際、コアトレーニングとバランス能力の関係については、2023年のスペイン・グラナダ大学の研究チームが、信頼性の高い分析で、コアトレーニングがバランス能力を大きく向上させることを明らかにしています。

ここで、私が実験的に行ったトレーニングについてお話しします。2021年・京都府スキー連盟のトレーニング講習会に参加してくれた中学・高校生約100名のアルペンスキー選手とクロスカントリースキー選手に、あるラダー(アジリティ)エクササイズを行ってもらったところ、最後までミスなくやり切れたのは半数ほどでした。

滑りの操作性、スキーヤー、体幹、ローカル筋

ローカル筋を整えることがアジリティのパフォーマンスを高めることを実感してほしかったので、約30分ほど立位でローカル筋を活性化する体幹エクササイズだけを実施しました。その後に、先ほど行ったラダーエクササイズを再度行ったところ、今度は全員がノーミスで完走しました。ローカル筋を活性化することは、姿勢を安定させるだけでなく、素早い身のこなしにも即座に影響することを、私自身再認識した経験です。

但し、アジリティはあくまでスキーに必要な要素の一つにすぎません。社会人スキーヤーにとって、より本質的なのは、次に述べるターン動作との関係です。

体幹部のローカル筋の活性化がスキーの操作性を高める

では、具体的に体幹のローカル筋を鍛えると、どのようにスキー操作がしやすくなるのでしょうか。

鍵を握るのは骨盤の傾きです。骨盤が過度に前傾すると股関節は内旋動作が優位になり、プルークボーゲンがしやすくなります。骨盤が過度に後傾すると外旋動作が優位になり、スキーはシェーレン(V字状)しやすくなります。

例えば、ターンの切り替えのタイミングで上体が被り、骨盤が前傾しすぎるとパラレルスタンスが崩れて、プルークスタンス(シュテム)が出現します。パラレルスタンスで切り替えできない方の特徴です。また、ターン後半にスピードに負けて姿勢が乱れ、上半身が引けてしまうと、連動して骨盤も後傾になります。すると股関節の外旋動作が優位になり、スキーのトップが開いてしまいます。

滑りの操作性、スキーヤー、体幹、ローカル筋

このように、骨盤が適切な角度に保たれて滑り続けることは、スキーの操作性に直結します。

また、2024年に報告された研究では、腹部をしっかり収縮させて体幹を安定させた状態で下肢を動かすと、股関節まわりの筋肉がより強く働くことが示されています。体幹という身体の中心(近位)が安定してはじめて、股関節や脚という末端(遠位)が力を発揮できる。近位の安定が遠位の可動を生む、という関係です。

同様に、体幹に力を入れると肩の筋力が高まることも報告されており、中心が安定することで四肢が働くという構図は、上半身でも下半身でも共通しているようです。腕や肩の位置は、体勢をリカバリーする際にも非常に重要です。

ローカル筋が整うことと、骨盤が適切な傾きに収まることは、相互に関連しています。座った姿勢で骨盤をわずかに前に傾けると、ローカル筋である多裂筋の活動が高まり、表層の脊柱起立筋は過剰に働かないことが、2010年の日本・東京都市リハビリテーション病院の研究で確認されています。深層のローカル筋が働く姿勢では、周囲のグローバル筋が余計な代償動作をせずに済む、ということになります。

この「代償動作」のコントロールが、ローカル筋を活性化させ、スキーの操作性を高める鍵になります。

代償動作を抑えて、正しくローカル筋を鍛えるための2つの方法

身体には、特定の筋肉がうまく働かないと、別の筋肉がその機能の代わりをして帳尻を合わせる性質があります。これを代償動作(本来使うべき筋肉が働かないため、別の筋肉や関節の動きで補ってしまう現象)と呼びます。

ローカル筋トレーニングの難しさが、この代償動作の見極めと修正です。ローカル筋を鍛えるつもりのエクササイズでも、正しい姿勢を保てていないと、身体はローカル筋の機能を補完するために、グローバル筋を動員して代償してしまいます。

滑りの操作性、スキーヤー、体幹、ローカル筋

そうなると、動きとしては同じように見えても、狙ったローカル筋にはほとんど効いていない、ということが起こります。慢性的な腰痛を抱える人では、多裂筋(ローカル筋)の弱化(働きが弱まること)により、表層の筋肉が過剰に働いてしまうという報告もあり、ローカル筋の機能低下と代償は関連していると考えられます。

厄介なのは、この代償が、本人にはとても気づきにくいことです。ただ漠然と鏡で自分の動作を見ても、代償動作が生じてしまっているのか、正しくローカル筋のトレーニングができているのかいないのかが、自分では判別しづらいものです。

getty images uCiyJr8n5bs unsplash

そこで、自分一人でできるチェック方法を二つ紹介します。

ひとつは、静止した姿勢での顎下のスペースです。顎が上がると、連鎖的に腰が反りやすくなります。逆に顎が下がると、背中が丸まりやすくなります。顎の位置という、誰でも意識できる一点が、脊柱から骨盤までの並びに影響していきます。これは正しい滑走姿勢の養成にも繋がります。顎の下に軽く拳ひとつ分ほどの空間を常に保つ意識で、頭の位置を整えてトレーニングしてください。

もうひとつは、スマートフォンでの自撮りです。鏡を見てトレーニングするのと大きく違うのは、重心の変化が判りやすいことです。撮影の際に、カメラのレンズを自分の重心の高さ(おおよそおへその高さ)に合わせて置くことで、鏡での動作チェックでは判別しにくい重心の変化が確認しやすくなります。この撮り方なら、動作中に重心が左右や上下へブレていないか、専門家でなくても自分で確認できます。

まとめ

スキーヤーにとって、ローカル筋を意識した体幹トレーニングがなぜ大切なのかをまとめます。

  • 鍛えるべきはグローバル筋よりローカル筋。腹筋を固める力ではなく、姿勢を制御し重心をコントロールする深層の力が、スキーには効きます。
  • ローカル筋は姿勢制御を支え、転倒・怪我の予防につながる。これは長く滑り続けたいスキーヤーにとって最優先のテーマです。
  • 体幹が整うと骨盤の傾きが適正化し、股関節の内旋・外旋=ターン動作がやりやすくなる。中心(近位)の安定が末端(遠位)の可動を生みます。
  • 最大の落とし穴は代償動作。正しい姿勢を保てないと、グローバル筋が肩代わりしてローカル筋に効きません。
  • 自分でできるチェックは、顎下のスペース(静止)とスマホ自撮り(動き)。まずはここから試してみてください。

ローカル筋のトレーニングは、正しく行えているかどうかで効果が大きく変わります。まずはご自身で、顎の位置や重心のブレを確かめるところから始めてみてください。そのうえで、動きの正しさや代償の有無をより細かく確認したい方は、パーソナルトレーナーの力を借りることも有効です。

S-CHALLENGEでは、遠方の方には「オンラインパーソナルトレーニングサポート」もありますし、関東近郊にお住まいの方は、スキーオフトレワークショップ」や「パーソナルトレーニングサポート」で実際にお会いして、カラダの使い方を学んでいただけます。

自分の身体の使い方を知ることは、スキー技術の上達促進だけでなく、スキーを一生楽しむための、確かな土台になると思います。

科学的根拠に基づいたスキーヤーのためのトレーニング方法を、メールで受け取りませんか?

今回の記事のように、最新のスポーツ科学や論文データに基づいた「スキーオフトレ情報」や「身体の使い方のコツ」などをニュースレター限定で配信しています。より効率良く、期待したトレーニング成果を得たい方は、ぜひご登録ください。

ニュースレター購読希望フォーム (黒文字)

参照エビデンス